ゲルハルト・リヒター

GERHARD RICHTER  ゲルハルト・リヒター (DVD付)

GERHARD RICHTER ゲルハルト・リヒター (DVD付)

目次

作家プロフィール

ゲルハルト・リヒター/ Gerhard Richter(1932-) ドイツ生まれ。

手ぶれを起こしてピントが合わなかった写真かと見まがうような人物像や風景画、色見本のようなカラーチャート、色彩鮮やかな抽象画など、一人の画家としては異例なほどさまざまなスタイルを駆使する。
1932年、東ドイツドレスデンに生まれ、同地の美術アカデミーに学ぶ。59年、カッセルのドクメンタⅡなどでポロックやフォンタナらの西側の現代美術にふれて衝撃を受ける。ベルリンの壁ができる半年前、29歳で西ドイツに移住。*1

作品紹介

《Tisch(机)》(1962)

f:id:az13:20170206025027j:plain
90 cm x 113 cm Catalogue Raisonné: 1
Oil on canvas
https://www.gerhard-richter.com/en/art/paintings/photo-paintings/household-icons-39/table-4954/?&artworkid=1&info=1&p=1&sp=32

《Ema (Akt auf einer Treppe)(エマ(階段を降りる裸婦))》(1966)

f:id:az13:20170206023133j:plain
200 cm x 130 cm Catalogue Raisonné: 134
Oil on canvas
https://www.gerhard-richter.com/en/art/paintings/photo-paintings/nudes-16/ema-nude-on-a-staircase-5778?&categoryid=16&p=1&sp=8&tab=associated-works-tabs

《Zehn Farben(10色)》(1966)

f:id:az13:20170206033219j:plain
135 cm x 120 cm Catalogue Raisonné: 135-1
Lacquer on canvas
https://www.gerhard-richter.com/en/art/paintings/abstracts/colour-charts-12/ten-colours-10704/?&categoryid=12&p=1&sp=32

《4 Glasscheiben(4枚のガラス)》(1967)

f:id:az13:20170206033702j:plain
4 parts, each: 190 cm x 100 cm Catalogue Raisonné: 160
Glass and iron
https://www.gerhard-richter.com/en/art/other/glass-and-mirrors-105/4-panes-of-glass-5876/?&categoryid=105&p=1&sp=32

Zwei Kerzen(2つのローソク)》(1982)

f:id:az13:20170206030737j:plain
120 cm x 100 cm Catalogue Raisonné: 497-1
Oil on canvas
https://www.gerhard-richter.com/en/art/paintings/photo-paintings/candles-6/two-candles-6354/?&artworkid=1&info=1&p=19&sp=32

《Glasfenster, 625 Farben(ステンドグラス、625色)》(1989)

f:id:az13:20170206033920j:plain
273 cm x 268 cm Catalogue Raisonné: 703
Coloured lead-glass window
https://www.gerhard-richter.com/en/art/other/glass-and-mirrors-105/stained-glass-window-625-colours-6667/?&categoryid=105&p=1&sp=32

《Spiegel, grau(鏡、灰色)》(1991)

f:id:az13:20170206034048j:plain
280 cm x 165 cm Catalogue Raisonné: 735-1
Colour-coated glass
https://www.gerhard-richter.com/en/art/other/glass-and-mirrors-105/mirror-grey-6870/?&categoryid=105&p=1&sp=32

《Ema (Akt auf einer Treppe)(エマ(階段を降りる裸婦))》(1992)

f:id:az13:20170206023539j:plain
224.0 cm x 150.0 cm Editions CR: 80
Cibachrome photograph mounted on Alucobond, framed and behind glass
https://www.gerhard-richter.com/en/art/editions/ema-nude-on-a-staircase-12772

《Schädel(ドクロ)》(1983)

f:id:az13:20170206031421j:plain
80 cm x 65 cm Catalogue Raisonné: 545-1
Oil on canvas
https://www.gerhard-richter.com/en/art/paintings/photo-paintings/skulls-55/skull-6529/?&artworkid=1&info=1&p=20&sp=32

《Äpfel(リンゴ)》(1984)

f:id:az13:20170206031547j:plain
65 cm x 80 cm Catalogue Raisonné: 560-1
Oil on canvas
https://www.gerhard-richter.com/en/art/paintings/photo-paintings/apples-3/apples-4759/?&artworkid=1&info=1&p=21&sp=32

《23.3.86》(1986)

f:id:az13:20170206033005j:plain 80 cm x 100 cm
Oil on gelatin silver print
https://www.gerhard-richter.com/en/art/overpainted-photographs/other-73/23386-14699/?&artworkid=6&referer=search-art&p=1&sp=32

《Betty(ベティ)》(1988)

f:id:az13:20170206031749j:plain
102 cm x 72 cm Catalogue Raisonné: 663-5
Oil on canvas
https://www.gerhard-richter.com/en/art/paintings/photo-paintings/children-52/betty-7668/?&artworkid=1&info=1&p=22&sp=32

《Baader-Meinhof-Fotos (18. Oktober 1977)(バーダー・マインホフの写真(1997年10月18日))》(1989)

f:id:az13:20170206032515j:plain
51.7 cm x 66.7 cm Atlas Sheet: 470
https://www.gerhard-richter.com/en/art/atlas/baader-meinhof-photographs-18-october-1977-12050/?&referer=search-art&title=1977&p=1&sp=32

《Schwarz, Rot, Gold(黒、赤、金)》(1999)

f:id:az13:20170206030121j:plain
2043 cm x 296 cm Werkverzeichnis: 856
Farbig emailliertes Glas
https://www.gerhard-richter.com/de/art/paintings/abstracts/abstracts-19951999-58/black-red-gold-10489

解説

美術界は今、写真と映像の氾濫である。どちらを抜きにしても、現代の美術について語り得ない。たとえば1997年の夏のヨーロッパ、ヴェネツィアの第47回ビエンナーレやカッセルの第10回ドクメンタの2大国際美術展にしても、個としての絵画や彫刻が影をひそめつつある反面、ヴィデオ・アートや映画、インターネットまでも駆使したハイテク・アートの隆盛には目を見張るものがあった。そしてどちらの会場でもゲルハルト・リヒターの作品群は他を圧していた。ヴェネツィアビエンナーレでは国際賞を受賞した。

f:id:az13:20170206023133j:plain
f:id:az13:20170206035446j:plain
マルセル・デュシャン 階段を降りる裸体No.2(1912)
wikipedia:en:Nude Descending a Staircase, No. 2

リヒターに『エマ(階段を降りる裸婦)』(1966)という作品がある。マルセル・デュシャンの有名な作品を踏まえたもので、一見すると、焦点のぼけた写真だが、実は写真をもとに油彩で「描いて」あるのだ。しかも、手ぶれを起こしてピントが合わなかったように、わざとぼかして描き出す。フォト・リアリズム、スーパー・リアリズムなどと呼ばれたリチャード・エステスやチャック・クロースの技法は、写真をもとに対象を精密に復元する。そのあまりの精密さに、見るものは唖然とさせられる。わざとぼかして描き一種の不安感、焦燥感をかきたてるリヒターは、彼らとは対極に位置する。

f:id:az13:20170206023539j:plain

リヒターは後年、この油彩画の『エマ』を改めて写真に撮り拡大してプリントにした写真作品の『エマ』(1992)を発表した。油彩の自作を、ふたたび写真というメディアを使って作品化したわけで、このほうは12点制作したという。いわば、絵画と写真との関係に揺さぶりをかけ、絵画というものの概念を変えたといっていいだろう。
リヒターは1932年、旧東ドイツドレスデンで生まれ、15歳のころ画家を志した。ドレスデン美術アカデミーを出た後、1959年に旧西ドイツに旅行し、カッセルのドクメンタジャクソン・ポロック、ルチオ・フォンタナの抽象絵画を見て衝撃を受けた。1961年2月には、デュッセルドルフに移住、東西を分断する壁がベルリンにできる半年前だった。デュッセルドルフの美術アカデミーでジグマー・ポルケらに出会って、「資本主義リアリズム」のためのデモンストレーションをおこなった。

f:id:az13:20170206025027j:plain

「かつて画家は外に出てデッサンした。われわれはシャッターを押すだけだ」。リヒターは1962年、新聞写真をもとにした『机』という作品を発表。写真をキャンバスに描き写すという特徴的なスタイルを早くも生み出した。ピンぼけのような効果を与えることで、独自の絵画作品として完成させたのである。この『机』を作品番号「1番」として、以後の作品にはすべて通し番号がつけられている。1964年、ミュンヘンデュッセルドルフ、ベルリンで個展を開催した。
リヒターは1973年の『ノート』で、主観性への嫌悪の情を披瀝し、近代のドイツ美術に支配的だった表現主義、戦後の、表現主義的な絵画や彫刻に対する世間一般の熱狂に背を向ける姿勢を示した。個人的な感情をいっさい排除して、制作に当っては、「極めて敏感で無関心で従属的な機械のように反応する」ことを望んだ。
こうした理論のもと、リヒターは、格子状のカラー・チャート、絵具の塗りのテクスチャーだけが見てとれる灰色一色の画面、絵具を厚く塗ってかき落とす鮮やかな色彩の抽象画と、次々に新たな試みに挑んだ。ときにはウンベルト・ボッチョーニら未来派の画家が試みたように人の動きをコマ送りのように見せたり、近年は写真の上に油絵具を乗せたオイル・オン・フォトグラフ、ガラス板にカラー・シートを張ったミラー・ペインティングなどの技法を創始するなど、多彩な展開をみせている。リヒターが、「絵画の終焉」がささやかれはじめた1970年代に本格的な活動をはじめたというのも象徴的だ。

f:id:az13:20170206031749j:plain

1980年代に入ってからは、宗教美術史でおなじみのロウソク、リンゴ、ドクロなどの象徴的なイメージを写真をもとに繊細に描き、同じ技法を使って彼自身の娘の肖像『ベティ』(1988)や、母子像の『Sと子供』(1995)などを制作した。

f:id:az13:20170206032515j:plain

ドイツ赤軍のメンバーの獄中死を扱った『1977年10月18日』(1988)は、単に事件を記録したものではなく、「同情と悲しみ」に駆られて描いた「言葉に尽くせぬ感情のひとつの表現」とリヒター自身が明言している。「個人的な感情をいっさい排除」したいと『ノート』にしたためた1973年のころと比べて、その芸術観も変わってきたのかもしれない。

f:id:az13:20170206030121j:plain

リヒターは今、ケルンに拠点をおいている。統一ドイツの首都移転に伴い、1999年に完成する旧帝国議会議事堂内に壁画を描くことになっている。アトリエに模型を置いて、構想を練っているという。

松村寿雄*2

ゲルハルト・リヒター写真論/絵画論

ゲルハルト・リヒター写真論/絵画論