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リュック・タイマンス

Luc Tuymans (Contemporary Artists)

Luc Tuymans (Contemporary Artists)

目次

作家プロフィール

リュック・タイマンス/ Luc Tuymans(1958-) ベルギー・モルツェル生まれ。現在、ベルギー・アントワープ在住*1

彼の作品は、90年代半ばの閉塞感漂う現代美術の中にあって、伝統的な手法である「絵画」を再認識させる上で大きく貢献したと言えます。また、彼の絵画は若い多くの画家に影響を与えており、その存在は、現代の絵画の可能性を語る上で欠かすことができません。*2

作品紹介

《Gaskamer (Gas chamber)》(1986)

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50,0 x 70,0 cm
oil on canvas
http://www.zeno-x.com/artists/LT/luc_tuymans.html

うつろな画面が伝える悲惨な暴力の歴史
タイマンスの絵画には、戦争やホロコーストといった過去の悲惨な歴史に言及した作品も多くみられます。
これらの作品は、表面的には他の作品と同様、怒りや悲しみなどの感情が一切払拭された無機質な画面 として描かれていますが、しかし逆に、イメージが淡々と描き出されていることにより、その事実が示唆する過去の惨劇の凍りつくような真の恐怖がより大きな戦慄を伴って見るものに伝わってきます。

またスナップ写真のようにカジュアルに切り取られた歴史の断片は、その淡白な印象とともに私たちの日常に秘められたそうした過去に直接結びつく「暴力」や「恐怖」の因子を浮かび上がらせもします。

彼は「自分たちの新しい兵舎(our new quaters)」(未出品)と誇らしげに書き込まれた、ある古い兵舎の写 真をもとに描いた作品について次のように述べています。「これは絵画というよりむしろ、戦争を想起させるある種の主張であるといった方が良い。それは暴力の象徴でもある。私は西洋文明とは、それ自身が進歩を続けるために破壊行為を繰り返し行なってきた、稀に見る数少ない文明であると考えている。」

《時間》(1988)

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油彩、キャンバス
30.0×40.0cm、39.0×40.0cm、37.0×40.0cm、41.0×40.0cm https://www.operacity.jp/ag/exh13.php

映画的な手法による構成
タイマンスは80年代初め、一時絵画を離れて映画を撮り続けていました。彼がよく用いるクローズアップや、部分のみを描くカットアップ、さらには断片的なイメージを組み合わせるモンタージュといった映画的な手法は、その後の彼の絵画を特徴づける重要な要素となっています。彼はこれまでDie Zeit(1988)、Der diagonish Blick(1992)、The Heritage(1995)、あるいは Illegitimate(1997)といったシリーズ作品を何回か手がけていますが、これらのシリーズは一見何の関係性も見られない別 々のイメージを寄せ集めた構成となっており、これにも映画的なモンタージュの援用が見て取れます。*3

《Der Diagnostische Blick IV(医学書IV)》(1992)

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57,0 x 38,0 cm
oil on canvas
http://www.zeno-x.com/artists/LT/luc_tuymans.html

静謐な透明感と現代の漠然とした不安感
ひと気の無い室内、無表情な顔、胴体だけが描かれた幼児の体。タイマンスの作品は、そのほとんどが雑誌やスナップ写 真などの日常的にありふれたイメージをもとに描かれています。それらの作品に漂うどこか寂しげな雰囲気は、その徹底して無機質的な印象とともに、私たちの意識の奥深くに閉じこめられた遠い記憶を呼び覚まします。  表層的でありながら深遠な思想を含み、また素朴を装いながらも高度に洗練された彼の作品は、決して固定的な解釈によって括られることがなく、常にシニカルとミステリアス、シンプルなものと恐怖・暴力との間を揺らぎながら永遠に浮遊し続けるかのようです。彼の絵画がもたらす清澄な透明感と、とらえどころのない茫漠とした不安感といった印象は、高密度に加速し展開し、その一方で深刻な希薄化が進行しつつある現代社会に生きる私たちの存在そのものを、見事に代弁しているとも言えるでしょう。*4

《Himmler(ヒムラー)》(1998)

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51,5 x 36,0 cm
oil on canvas
http://www.zeno-x.com/artists/LT/luc_tuymans.html

イメージを徹底的に無機質に描くという「暴力」
タイマンスの作品には常に孤独感が漂っています。音も動きも無く、そして喜びや悲しみ、怒りといった感情的な要素もその表面 から慎重にぬぐいとられた絵画。タイマンスはその完全に無機質化された画面 を通して、その中に描かれたごくありふれた日常的なイメージが持つその最も純粋な様相を浮かび上がらせようとしていると言えます。

そのように対象を最もダイレクトに描こうとする態度は、タイマンスによれば、対象に冷徹な眼差しを向け続けたファン・アイクや仮面 の人物を好んで描いたジェームス・アンソール、さらにはつねにクールでありつづけたマグリットといった、シニシズムアイロニーに満ちたベルギー独絵画特の系譜につながるものであると言います。

またそうした一切の粗雑物を排除し、イメージをできるだけシンプルにかつダイレクトに描こうとする彼の絵画は、いわばある種の「暴力」の表出に他ならないとも言います。*5

Leopard》(2000)

f:id:az13:20170205050541j:plain
142,0 x 129,0 cm
oil on canvas
http://www.zeno-x.com/artists/LT/luc_tuymans.html

Lamp》(2009)

f:id:az13:20170205050817j:plain
56,0 x 53,0 cm
oil on canvas
http://www.zeno-x.com/artists/LT/luc_tuymans.html

解説

 彼の絵画の特徴は、硬質で冷ややかな光や、あるいは逆にぎらぎらした光を発するフィルムのスクリーンやテレビモニターのような絵画表面と、フェード・イン/アウトの途中のような映像的なイメージの表現にあるといえる。そこでは、食べ物、家具、玩具などの身近なものが輪郭をぼかされ、拡大縮小され、フレームによって切断され、奇妙な関係性や歪んだ遠近感を与えられて現実との接触を失う。それは、彼が80年代初めに実験的な映像を撮っていたとき修得した物の見方や空間構成を絵画に取り入れた結果だ。
 タイマンスによる感情を抑えた分析的な事物の扱い方は、観客に、イメージを人間的な関心から切り離された即物的な存在として、同時に、色による膨張や収縮の錯覚などによって形成される絵画的、視覚的現象として見るように促す。89年の『償い』では、ナチスの医者が死ぬ間際まで分類していた分断された人体の部分が格子状の棚に収まった物体として、またさまざまな色の面として描かれた。92年のシリーズ「医学書」では、やはりナチスの医者が使っていた患者の顔写真が、淡い色と空虚な目の表現によってさらに非人格化された肖像に変容された。89年の『サスペンデッド』では、郊外の家と家族の風景が、徹底して人工的な光と色で描かれることで、人形の家なのか現実なのかわからなくなっていた。95年の『フランドルの知識人』は、ベルギーの知識人の肖像を、消えそうな輪郭で落書きのように描くことで、その尊大さや空虚さをからかった風刺画である。
 一連の作品は、ジョン・カーリンやエリザベス・ペイトンの作品と並んで、90年代後半の具象絵画の流行を導いた。彼の絵画の実験性は、70年代終わりから90年代の初めまで現代美術の世界に蔓延していた「絵画の死」(ダグラス・クリンプDouglas Crimpが論文「絵画の終り」The End of Paintingで提唱。特権的な絵画の形態や絵画の発展を新しい様式の発明の歴史ととらえる見解が美術を制度的に硬直化させてきたが、それはゲルハルト・リヒターフランク・ステラらの批判でも踏襲されているという)に歯止めをかけた。タイマンスの絵画は一見、写真や広告などをコピーし、新しいイメージをつくるのをあきらめることで、逆に絵を描くという行為を肯定したリヒターの作風を思わせるが、明度や彩度や色彩の操作によって起こる視覚的錯覚や、断片的なイメージが喚起するさまざまな記憶や知覚の運動をその目的とするという点でアプロプリエーションとは別の志向性をもち、具象を通してモダニズム絵画のもっていた絵画的物質性の探求に回帰するものである。[松井みどり] 『「リュック・タイマンス・インタビュー」(『美術手帖』2001年1月号所収・美術出版社) ▽Ulrich Loock et al. Luc Tuymans (1998, Phaidon, London) ▽「リュック・タイマンス展――Luc Tuymans Sincerely」(カタログ。2000・東京オペラシティ文化財団)』タイマンス(たいまんす)とは - コトバンク

Luc Tuymans: Intolerance

Luc Tuymans: Intolerance